急がなくちゃ、と思った。

アキがまってるから。


だからってのもおかしいけど、

他の飛び出した人を避けようとして曲がったトラックに

俺は気づけなかった。




ありがとう




俺の視界は真っ黒で、

音も、色もなにもない。



唯考えるのは、アキのことで。



今日、スポーツショップでスパイク選んでもらう予定だった。
アキ、センスいいから。

ちゃんと俺に合ったの選んでくれるから。

アキ、ドレくらいまってるかな。
早くいかないと、又怒られちまうな。




でも、
体が動かないんだ。

ちくしょう、動けよ。
なんだってこんなときに限って動かないんだよっ!


行かなきゃと思った。
アキに合わなきゃいけないと思った。


合いたいと願った。




「一馬?」

音も色も何もなかった世界に、声が現れた。

それは誰よりも望んでいた声で、
俺はしっかり目をあけているつもりなのに、
アキの姿が見えないのはなんでだろう、と思った。


ゴメン、遅れた。




そういいたくても口が動かなくて。
まるで全力疾走した後みたいに、息しかできなくて。


それから、しばらくアキは話さなくて
それでも近くに居てくれることは分かったから、
必死で触ろうと手を動かそうとするんだけど、
それもままならなくて。

自分の体にむかついてた時、もう一回声が聞こえた。


「もう、いいわ」


何が?少しだけ諦めが入った優しい声音で。
俺はアキが心配になった。
謝る。俺が悪かったなら謝るから。

重い瞼をもう一度全力をもって開ける。
ふっと、視界に入ったのは
すげえ優しそうな笑顔だった。

それを見れただけでも幸せだなっておもった。
こんなアキ見たのは初めてだったから。









「ありがとう」









今度はその優しい顔のままでアキが口を動かす。

「ありがとう、一馬」





「もう、いいから、ムリ、すんな」




まるで、ちゃんと家に帰ってこれた迷子みたいに
俺は安心して。
それから、
それから――――――








+END+
それから逝ってしまうのですよ
留守番電話、一馬編。
微妙に話が分からないので、第三者結人編と
後日談水野編用意してあります<なにそれ



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