彼を覚えていないものなんて、いらない



○●○フィルム○●○



部屋の中に、一つやけにさびれた
でも確かに大切にされているアルバムがあった。

なんだっけ?

俺は手にとって、オレンジ色の表紙を開いた。


遊園地の写真

水族館での写真

公園のサクラの前でのもの

これは、きっと試合の時のだ

学校、中学校の卒業式の写真

どれもこれも大切に扱った後があって、




でも、そこには俺独りしか写っていない。

どのページにも
どこの写真にも

俺が一人で写っているか
人間が一人もいない風景だけの写真だった。


一人なのに、何で俺こんなに笑ってるんだろう。


あの日から、俺はこんなに頬を紅くして
心の底から綺麗に笑ったためしなどない。

そっと、指先で写真に触れる。


その瞬間分かってしまったんだ。



ここには、トウヤがいた。

ここには、俺の大好きな人がいた。

一度は消えてしまった記憶。


この世から消えてしまったトウヤ。


でも、俺の中には、心にはまだシッカリ残っていた。





急に頭が白くなった。
気がついたのは、酷く大きな何かを破るような音。

自分の手にフィルムが握られていて、
足元には沢山のすでに引き裂かれて駄目になってしまったフィルムの山。

あぁ、俺何やってるんだろうと思った。




でも、気に入らなかったんだ。


俺の部屋にあるものが、トウヤのことを忘れているなんて。


俺の心の中だけにはしっかり残っているのに。


俺の部屋のものでさえトウヤのことを忘れているのかと思うと腹が立った。


トウヤを忘れたアルバムなんていらない
トウヤを映さないフィルムなんていらない

貴方が居ない記憶なんて
貴方が居ない思い出なんて

これっぽっちもいりゃしない


撮り直そう。
遊園地でも、水族館でも、公園でも、学校でも

もう一回やりなおそうよ。

だから、だから。

はやく戻ってきて。

俺の心が貴方を忘れるその前に。





***END***
Hikari*Suzukane

久しぶりにトウハヤです。
やっぱりというかなんというか、それぞれの道の設定のやつですね。
トウヤさんだけリィンバウムに呼ばれて
トウヤさんの世界の人間はトウヤという人間を忘れてしまうという話。
だんだん、ハヤトが乙女になってきてます。
トウヤさん、あんたがリィンバウムでソルといちゃいちゃしてるあいだに
ハヤトさんはこんなに辛い思いをしてるのですよ?



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